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FLEXFORM TOKYO×Lights Gallery 「儚さにある美を巡る時間」レポート

FLEXFORM TOKYO×Lights Gallery

「儚さにある美を巡る時間」レポート

現在、東京・南青山の FLEXFORM TOKYO にて、Lights Galleryによるキュレーションのもと、インテリアと 3 人のアーティスト作品がコラボレーションした企画展「儚さにある美を巡る時間」を開催中です。本日はそのレポートをお届けしたいと思います。

FLEXFORM は、イタリアの巨匠デザイナー・アントニオ・チッテリオ氏がディレクションす る高級家具ブランド。トレンドに流されない普遍的なエレガンスと、気品ある美意識によ ってさらに進化した「FLEXFORM 2022 NEW COLLECTION」が発表されました。

そして、その新作と共に展示するのが、国内外で注目される 3 名の若手アーティスト、言上真舟さん・谷川美音さん・植村宏木さんです。3 名とも過去に Lights Gallery で企画展 を開催し、好評を博しました。

言上真舟さんは、現在スウェーデン・ストックホルムを拠点に、ガラスを用いた作品制作 に取り組んでいます。スウェーデン留学当初、言葉の壁で板ガラスを発注できず、他の学 生が捨てたガラスを集めて作品を制作するしかなかったそうです。そうして生まれたの が、今回 1 階に展示した、板ガラスの破片をつないだドレス「Ambivalent Daybreak」、砕 けた車窓ガラスで象ったハイヒール「For an Unknown Day」。その廃棄ガラスが放つ繊細 な輝きと影は、背伸びして美しくなりたいという願いと、ガラスによって身体を傷つける かもしれない危うさを孕んだ、若くて儚い思いを感じさせます。 また今回は、薄い破片が宙に舞い、景色に儚さと軽やかさを与えていく「Paused Landscape」(2 階・3 階)、インテリアに装着するジュエリーともいえる「Miscellanea’s Mirror」3種(3 階)を展示しています。

谷川美音さんの漆作品は、FRP(繊維強化プラスチック)を丁寧に削り出した自由なフォ ルムと、漆を何層も塗り研ぐことで表れる艶やかな色彩と立体感があり、軽やかでのびや かで心地よい脈動感を空間に生み出します。インスピレーションの源は、谷川さんの身近 にある自然。例えば草や木、山、風、光などに触れて感じた気持ちよさ、その刹那的な感 覚を自分の中に取り入れてドローイングし、それを元にして、時間と手間を掛けじっくり 形にしていくそうです。今回地下 1 階に展示した「blurred point_v_03」は、高さ 1.5m、幅が 3.6mという大 作。みずみずしい動きのある線が壁一面に解き放たれたような、力強い生命力を感じます。これだけのサイズがあるものはなかなか展示できないため、貴重な機会です。そのほ か「輪郭の表面_01」「window_03」「爽籟 -sorai-」(全て地下 1 階)を展示しています。

植村宏木さんのガラス作品には、その時の空気感、時間、記憶、気配、思いなどが内包さ れています。植村さんのテーマは「身の周りに存在している目に見えないものを、ガラス を素材として使い可視化する」ということ。作品を見ていると、ハッとするような新鮮 さ、風景に和んでいく優しさ、心に染み入る懐かしさを感じます。今回 2 階に展示した、木とガラスからなる作品「空象形 Shape of Space」。空間に凛と した白い枠が出現し、一部繊細な曇りを孕んだ透明なガラスバーが枠内を貫通していま す。景色を掬(すく)う枠の向こうに何か新しく、懐かしい景色が続いていくような、不 思議な感覚が呼び起こされます。そのほか、熱を帯びたガラスのひと時の姿をとどめた作 品「心象形」(2 階)を展示。柔らかな光を纏うガラスは、その時々の心を映すよりどころ となるでしょう。

この若手アーティスト 3 人による儚く脆く、みずみずしい作品性と、チッテリオ氏が監修 する FLEXFORM の普遍的なエレガンスが、ひとつの空間で融合したインスタレーションを ぜひ体感していただければ幸いです。会期は 2022 年 11 月 29 日まで、東京・南青山の FLEXFORM TOKYO にて行われています。

さて、ここから書くことは裏話であり、本来はあまり表に出すべきではないのかもしれま せん。でも、私自身、初めて会場での作品設置に携わり、「アートとインテリアが融合す る空間とはこうして出来上がるのか」と改めて気付かされました。

ぜひ、その時のことをダイアリーのように綴ってみたいと思います。

企画展開始の前日、気持ちよく晴れた秋の朝。東京・青山にある FLEXFORM TOKYO にて、ストックホルム、京都、名古屋、東京からやってきたメンバー全員が集合しました。今回ショールームに展示する作品は総数 26 点。最大で約3.5×1.5mもある作品、最多で 約 100 本のテグスからなる作品…どれも脆く繊細な作品ばかりで、細心の注意を払って設置していきます。

当初は順調に進行していたものの、想定していた設置方法が上手くいかないことも出てき ました。それでも、困った時はアーティスト同士がアイデアを出し合ったり、備品を貸し あったりと、自然と支え合うようにして設置作業が進んでいきます。休憩時には、ひとつ のテーブルを囲んでお弁当を食べながら会話を楽しむ、和やかなひとときもありました。

やがて日が暮れる頃。FLEXFORM のインテリアと 3人のアーティストの作品が融合した、エレガントで、儚くて、温かで、みずみずしいインスタレーションが生まれました。そのことを、関係者全員で喜び、労いました。外に出てショーウィンドウを見上げた時、南青山の夕闇に言上 さんの作品「Paused Landscape」がひらひらと舞う光景が浮かび上がり、皆で歓声を上げ たことが忘れられません。

このようなアーティスト同士の心のつながりが、今回の企画展に滲み出ているような気がしてならないのです。

Lights Gallery の言う「融合」は、全て均一に交じり合うという意味ではなく、それぞれの個性を際立たせながら、それぞれの境界を溶け合わせていくという意味です。 それぞれが個性や思いを持った存在で、それを持ち続けるためには境界は大切です。境界 は、自分を保ちながら相手を尊重するためにあるもの。そして境界を豊かに重ね合わせる ことで、お互いが心地よく存在することができると考えています。 その目に見えない心地よく豊かな境界がこの企画展を象ったのではないかと、そう感じました。

今回の企画展のサブタイトルは「儚いからこそ、愛しく、美しい。そして、未来へ繋がる 生命力にあふれている」としました。人と人、人と自然、人とモノの間にある境界ほど、 儚く、危ういものはないかもしれません。だからこそ、その境界を豊かに、お互いに少しずつ重ね合わせていくことが、多様性を尊重し、未来へ繋がる新しい価値を生み出すので はないかと、今回のことで気付きました。

ここに行きつくまで、3名のアーティストのみならず、FLEXFORM TOKYO のご担当者様をはじめ、たくさんの方と言葉を交わし、相談し、議論をさせて頂きました。糸を紡ぐように、その糸を丁寧に編んでいくように、関わってくださった全ての皆様が、この企画展の実現に向けて、心と時間を尽くしてくださいました。本当にありがとうございました。心から御礼を申し上げます。
文筆:橘紀子(Lights Gallery 運営サポートメンバー)

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